Gunosy Blockchain Blog

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価値創造に基づくユーティリティトークンのモデル分類

はじめに

こんにちは。新規事業開発室のOsuke(@zoom_zoomzo)です。

前回まで、山口くん(@yamarkz)がフィッシャーの交換方程式を応用したユーティリティトークンの理論価格算出からToken Velocity問題とそれを解決するためのアプローチを解説してくれました。

blockchain.gunosy.io

このVelocity問題とは経済圏の規模が広がるにつれてトークンの流通速度が上昇してしまい、トークンの価値が低下してしまう問題のことを言います。この問題の解決策として前回の記事で解説しているように、いくつかのアプローチが提案されています。

そこで当記事では、このVelocity問題解決のアプローチをふまえて、実際にどのようなトークンのモデル設計を行えばユーティリティトークンの価値を向上させていくことができるのか、できるだけ具体的に解説していきます。

価値創造に基づくユーティリティトークンの分類

ユーティリティトークンは何らかのサービスを利用するために用いられるトークンです。そして、このユーティリティトークンに価値を生み出すために重要なことが「ユーザーにトークンを保持していたい」と感じてもらえるようなトークンモデルにする必要があるということです。

これは、上述のようにトークンにはVelocity問題があるからです。

例えば、価格変動のリスクがあるとユーザーはあまりトークンを長期間保持したくなくなります。つまり、トークンをより多く、より長期間保持していることがユーザーにとってメリットとなるようなトークンモデル設計が重要になってくるのです。

ここでは、ユーティリティトークンの価値を向上するためのモデルとして、Workトークンモデル, Burn & mintトークンモデル, Discountトークンモデル, Usageトークンモデルの4つのモデルに大きく分けて考えていきます。

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価値創造に基づいたユーティリティトークンのモデル分類はいくつかの案が考えられ、提案されていますが、この分類はOn the immaturity of tokenized value capture mechanismsで紹介されている考え方に基づいています。

それでは、それぞれのトークンモデルについて詳しく見ていきましょう。

Workトークンモデル

Workトークンとは、そのサービスに対して何らかの「仕事」を行うことで報酬を得ることができるモデルです。つまり、ただの支払いのためにトークンを用いるのではなく、ユーザーがサービスに仕事(貢献)をすることでそのトークンがもらえたり、あるいはそのトークンの単位あたりの価値(価格)が上昇するようなモデルになります。

Work tokenモデルに共通することは仕事をするために、そのトークンをステーク(あるいはロック)する必要があることです。ステーキングに対して経済的なインセンティブを与えることによって、ユーザーがトークンをより多く、より長く保持することを促しています。

また、Work トークンモデルの良い点は、そのトークンに対する投機家が存在しなくてもサービスの利用が増えるほど、そのトークンの価格も上昇することです。つまり、コモディティとなるサービスを提供しているので、そのサービスに対して仕事をすることでトークンの価値も上がり、サービスの需要も向上するという正の相関関係になります。

それでは、具体的にどのような方法でWork tokenモデルでトークン価値を上げていく方法があるのか見ていきましょう。ここでは、さらに、Pure workトークン、Access-basedトークン、TCRトークンの3つに分類して考えていきます。

Pure workトークン

Pure workトークンのモデルでは、貢献者がサービスに対して仕事をするために一定量のトークンをステークする必要性を与え、そのステークするトークンが多いほど、仕事ができる確率が増え、得られる報酬も多くなるように設計します。一方で、誤った仕事をしてしまった場合はステークしたトークンが没収されるなどのペナルティが与えられることになります。

これにより上述したようにステーキングに対して経済的なインセンティブを与え、Velocity問題を解決しようとしているのです。

トークン価値を向上させるには、そのサービス自体の需要が高まり、多くの報酬を得るために貢献者の間での競争が起きることも重要です。つまり、仕事をすることに対する権利の価値を増大させている側面もあります。

Pure workトークンとして代表的なプラットフォームとしてAugurがあげられます。

Augurは分散予測市場を目指すプロジェクトで、未来の出来事に対する予測をトークンを用いたインセンティブ設計で実現しようとしています。

この予測市場において、出来事の報告を行うユーザーはREPトークンをステークする必要があり、ステークした量が多いほど、正しい報告とコンセンサスが取れた場合、多くの報酬を得ることができます。また、この報酬はサービス上の手数料となっているので、前回の記事の利益分配のアプローチに相当していることになります。

Pure workトークンの他の例としては、分散ファイルストレージのFilecoinやオフチェーンコンピュテーションのTruebitなどがあげられます。

Access-basedトークン

Access-basedトークンは、上述のPure workトークンに似ていますが、2種類のトークンを用意することが特徴的です。(ここでは「ロックトークン」と「手数料トークン」として考えます。)

それぞれのトークンはその名の通り、それぞれロックするトークンとサービスを利用するときの手数料を支払うためのトークンです。

ここでポイントなるのが、手数料トークンはロックトークンを一定期間ロック(デポジット)することによってしか得ることができない、ということです。つまり、手数料トークンはこのサービスでしか用いることができないし、逆に外部の取引所から得ることもできないのです。

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なので、このサービスの需要が増えると、当然利用のための手数料がさらに必要になり手数料トークンの価値が上がっていきます。これにより、ロックトークンをロックするインセンティブが生じ、Velocity問題につながるというモデルになります。

Accsess-basedトークンの具体例としては、Gnosisがあげられます。Gnosisでは、上述のロックトークンがGNOトークンとして、手数料トークンがOWLトークンと呼ばれています。(さらに、GNOトークンのBurnによる手数料の減少メカニズムも存在します。)

GnosisはAugurと同様の予測市場プラットフォームですが、AugurではPure workトークンでステーキングに対して利益配分によるインセンティブを与えていたのに対し、GnosisではAccess-basedトークンでOWLトークンの価値を高めることでトークンをロックすることへのインセンティブを高めていることが分かります。そして、どちらもVelocity問題解決のために、ユーザーにより多くのトークンをより長い期間保持させようとしています。

TCRトークン

TCRもステークすることにインセンティブを与え、ユーザーがサービスに対して仕事をすることを促していることを考えるとWorkトークンモデルに分類できます。

TCR(Token Curated Registries)トークンとは、あるリストを示したトークンになります。例えば、ここでは広告配信先の良質なwebサイトがリスト化されていると考えていきましょう。

このリストに参加して自身のサイトに広告を配信してもらいたいサイト運営者は、TCRコントラクトにトークンをステークします。すると、そのサイトのリスト参加可否に関する投票がそのTCRトークンホルダー達によって行われます。良質なサイトがTCRに載ってもらうことが、そのTCRトークンの価値向上につながり、結果的に価格を上げることなるので、TCRトークンホルダーにとっては、しっかりと投票を行うことがインセンティブとなるのです。

つまり、TCRに載っている分散的に管理された良質なリスト情報に需要が増えていくと、そのTCRトークンの価値は向上していくと考えられます。

f:id:osuketh:20180619124501p:plain source: [adchain whitepaper](https://adtoken.com/uploads/white-paper.pdf

代表的なTCRのプロジェクトとしてadChainがあげられます。adChainは、コミュニティによる分散管理で透明性の高いデジタル広告を実現しようとするプロジェクトです。ここで例として紹介したTCRの概要は、adChainの例となっています。

Burn & mintトークンモデル

Burn & mintトークンモデルは、流通しているトークンをBurnすることによって供給量を減少させ、単位あたりのトークン価値を高めるモデルです。

そのサービスの利用が増大することに伴い、トークンの価値が増大するようにするためにBurn(供給減)とMint(供給増)を組み合わせるケースがメジャーです。

Proof of Burnトークン

Proof of BurnトークンはFactomが代表的です。Factomでは、FCT(Factoids)とEC(Entry Credits)という2種類のトークンを用いて、FCTをBurnすることによってECが生成できるようなモデルとなっています。

FTCは通常のトークンとして取引することが可能ですが、ECは他のユーザーにtransferすることができず、かつ常に1EC=0.001ドルとなっています。

これは、1ドル相当のFCTをBurnすると1,000ECが得られるように決められているからです。そして、ECを利用することによってFactomのサービスを受けることができます。(これにより、ECの価格変動リスクを抑えています)

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一方、FCTは毎月決まった枚数が新規発行されます。サービスの利用が増え、発行量よりもBurnされる量が多いと、供給量は減少するので価格は上がることになります。また、反対に利用が減ると、同じメカニズムで価格は下がることになります。さらに、FCTのBurnがドルベースになっていることこの平衡状態に関与しています。つまり、トークンの価格が上がるほどBurnするトークン数は少なくてすむので、供給が増えることにつながり、逆にトークンの価格が下がるほどBurnするトークン数は増えるので供給が減ることにつながります。

このようなmint & burnの平衡状態になり、長い目で見るとトークンの価値とサービスの利用が比例的な関係になると考えられます。

つまり、Factomサービスの需要が増えることで、トークンの価値も向上していくように設計されているのです。

Buybackトークン

Buybackトークンとは、そのトークンの発行主体がトークンを買い戻し、(通常は)burnすることで、トークンの価値を高めるモデルです。これは、発行主体によって主体的にもたらされる価値向上(価値分配?)になるので配当にイメージです。

配当が直接的にトークンホルダーに対し価値を分配するのに対し、Buybackでは間接的にトークンの価値を分配、向上させています。

配当だと、それぞれのトークンホルダーに対してトランザクションを送信しなければならないため多くのgas feeがかかってしまうことになりますが、Buybackではより少ないgas feeで効率的に行うことができます。

また、配当要素はユーティリティトークンではなく、セキュリティトークンとみなされてしまうことが考えられます。これに対して、何らかのメカニズムでBuybackを行うことで証券性を低下させています。

Discountトークンモデル

Discountトークンモデルとは、あるサービスを利用するときにそのDiscountトークンを保持していれば、一定の割引を得られることです。

その割引となるサービスに需要があり価値があるほど、Discountトークンの価値も向上します。

また、これは今回紹介するトークンモデルの中で最も、トークンを利用するユーザーに価値の恩恵が受けられるようなモデルとなっていることが分かります。つまり、受動的なトークン投機家よりも実際にそのサービスを主体的に利用するユーザーが価値の源泉となっています。

Discountのモデルもさまざまなデザインが考えられます。

  • 割引は1回しか利用できない、あるいは何回でも割引が利用できる
  • 割引額が固定値(例えば、1ETH分)、あるいはそのトランザクション額のパーセンテージ
  • 割引率を毎回一定の計算ルールで定めるのか、あるいは何らかの外部変数で都度変えるのか

例えば、取引所BinanceのBNBトークンを保持していることによって取引手数料を割引してもらうことができます。初年度は50%の割引率で次年度以降徐々に減少していくように設定されています。また、BNBトークンは一定間隔でBurnすることでも価値を向上させようとしています。

Usageトークンモデル

Usageトークンモデルとは、そのトークンの利用が増えるほど価値が上昇するように考えられているトークンモデルです。(逆に、利用が増えないと価値も増えない。)

ここでは、Steemitとステーブルコインの例を見ていきましょう。

Steemit (Triple-token stable systems)

ここでは特徴的なトークンモデルとしてSteemitの3種類のトークンモデルがあげられます。Steemitとは、良い記事を書くと良い評価が得られ、より多くの報酬が得られるようなサービスを目指しているプロジェクトです。

このSteemitでは、下図のように3種類のトークンが存在します。

  • SP:保有していると利子を得ることができる。すぐに交換できない。
  • SBD:1SBDが1ドルにペッグする
  • STEEM:SPとSBDから交換できる。外部取引所で交換可能

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そして、以下の2つの理由によりSTEEMではなく、SPの形でユーザーに保持させるインセンティブを与えています。

  • SPを保持している量が多いほど「記事への評価」で得られる報酬が多くなる
  • SPを保持している量が多いほど、新規発行トークンを得やすくなる

さらに、保持している全てのSPをSTEEMに交換するためには約3ヶ月必要になるのです。

このようなトークンモデルを考えると、序盤のAccess-basedトークンに似ていることが分かります。つまり、STEEMトークンをSPという形でロックしておくことにインセンティブを与え、Velocity問題を解決しようとしているのです。

また、これらはインフレトークンになるので、ただトークンを保持しているだけでは価値は希釈されていきます。なので、ユーザーがサービスで積極的に活動し続けることも促していることになります。

参考:広告収益に依存しないWebメディアの新モデル「Steemit」とは

Stablecoins

ステーブルコインとは、基本的に1ドル=1トークンなどになるようにトークン価格を法定通貨の価格にペッグさせることを目指したトークンとなります。

このようなボラティリティが少なく、価格変動リスクが少ないトークンはdAppsなどでの利用であったり、長期間のデポジット、ステーキングに用いるメリットがあります。また、ペイメントとしての利用も考えられます。

ここではステーブルコインの詳しい仕組みまでは触れませんが大きく分けて以下の3種類に分類することができます。

  • 法定通貨担保(例:Tether)
  • 暗号通貨担保(例:Maker)
  • シニョリッジシェア(例:Carbon, Basis)

まず、ステーブルコインはボラティリティが少ないので長期間保有していることのリスクが少ないです。そして、ステーブルコインが上述したような需要が増していき、買われていくと、価格を安定させるため新規ステーブルコインを発行します。

この発行された分の配布先はそれぞれのステーブルコインの種類によって異なります。例えば、アセットの担保を持たず、ステーブルコインの供給量をアルゴリズムに基づき調整することで、価格の安定化を図るシニョリッジシェア型のCarbonでは、Carbonクレジットトークン(ステーブルコインではない)所有者に配布されます。

クレジットトークンは、Carbon(ステーブルコイン)の価格が低くなってしまったときに、Carbonでクレジットトークンを購入してもらうことで入手することができます。このとき支払われたCarbonをburnすることで、Carbonの価格を上昇させ安定化を図るわけです。

そして、上述したように逆に価格が上昇した場合はクレジットカードを保持していると新規発行分のステーブルコインがもらえるのでクレジットトークンを購入するインセンティブになるのです。

このように価格変動リスクが少ないステーブルコインは長期間保有に対してのリスクが比較的低く、利用が増え、需要が増大すると、新規にステーブルコインが発行されるので、コイン全体としての価値も向上することが分かります。

まとめ

ここまで紹介したトークンモデルについてまとめると以下のようになります。

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X軸では、そのトークンの価値の源泉がトークン生成による客観的、受動的なアプローチなのか、あるいはトークン利用に重きをおいた主体的なアプローチなのかを示しています。

Y軸では、トークンの価格を上げるために、需要を増やすアプローチを重視しているのか、あるいは供給を減らすアプローチをしているのか示しています。

また、それぞれが排他的にデザインされているのではなく、ひとつのトークンが複数のトークンモデルに当てはまっているケースもよくあります。

例えば、分散的なデータ取引プロトコルであるOcean protocolはWorkトークンモデルをベースに、TCRのメカニズムも用いています。

このように価値創造に基づいてユーティリティトークンのモデルを分類することは、困難な部分も多いですがこのように整理して考えることでサービスごとに適したユーティリティトークンの設計がしやすくなると考えられます。

参考

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