Gunosy Blockchain Blog

Gunosyの開発メンバーが知見を共有するブログです。

価格が安定している暗号通貨 "Stablecoin" 概要

はじめに

こんにちは! 新規事業開発室の山口(@yamarkz)です。

最近SNSを見ているとStablecoinについて話題になっているのを見かけました。Stablecoinは最近Cryptoに特化したファンドを立ち上げた海外の主要ベンチャーキャピタルであるAndreessen Horowitz(a16z)が多額の投資を行なっていることでも有名です。

bitcoinexchangeguide.com

世界のベンチャーキャピタリストも注目するStablecoinについて、社内向けにまとめていた内容を今回は概要を中心にブログでも紹介していきたいと思います。

結論

  • Stablecoinは価格が安定している暗号通貨の総称で、一般ユーザーが商品売買やサービス消費に利用しやすくするために生まれた
  • 価格を安定させるためのアプローチは3つある。Fiat-collateralizedCrypto-collateralizedSeignorage Shares
  • Stablecoinは現在研究開発段階で、いくつかプロダクトが出てきているものの、実利用で用いられているものは少ない

暗号通貨が一般的に普及するために必要な4つのこと

さっそくStablecoinの紹介をしていきたいと思うのですが、その前に暗号通貨の現状を整理したいと思います。 ブロックチェーン技術を用いた最初の暗号通貨であるBitcoinが世に生まれてもうすぐ10年が経とうとしています。

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Bitcoinの価格変遷を見ると世間的に暗号通貨に対する認知が高まりつつあることがわかります。が、実際に暗号通貨を利用するという点で見るとまだまだ世に普及してきているとは言い難い状況です。ここでの普及とは、商品売買での支払い利用や、Dapps利用時に扱うユーティリティトークンなども含みます。 今後暗号通貨が世に広まり、一般的に利用されるようになるためには大きく4つの問題を解決する必要があると考えられます。

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  • スケーラビリティ
  • プライバシー
  • 非中央集権性
  • 価格安定性

スケーラビリティ問題は開発者の間ではよく話題になる話です。オフチェーン処理、サイドチェーンの実装、ブロックサイズの引き上げなど、世界中の開発者がこの問題解決に取り組んでいます。プライバシー問題は匿名化技術の応用により解決が進んできているものの、マネーロンダリングにも関係してくるためどっちつかずといった状況です。非中央集権性は言わずもがな、分散型アプリケーション最大の特徴であり、中央ではなく個人に力が寄る仕組みです。非中央集権性が普及するには、中央に力が寄る仕組み以上に個人に力が寄ることに対して大きなメリットと、個人が秘密鍵を管理するなどのリテラシーの向上、もしくは管理に対して障壁が下がることが必要です。

そして4つ目の問題点として価格安定性も暗号通貨が一般に普及する重要な要点となっています。Stablecoinはこの暗号通貨が抱える価格安定性の問題を解決するために考案されました。

次にStablecoinと価格安定性の関係を深掘りながら安定性の実現にはどういったアプローチがあるのか。また、どういったプロジェクトが現在立ち上がっているのかを紹介していきます。

Stablecoinとは

Stablecoinとは、Stable(安定)と付くように、価値の安定性を持つ暗号通貨です。

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現在、多くの暗号通貨が誕生していますがその多くはボラティリティ(価格変動)が大きく、一般のユーザーがサービス利用や、商品売買などに用いるにはリスクが大きすぎます。 ここでのリスクとは、取引所で通貨を購入したものの、購入後に価格が変動し、購入した通貨の価格が下落した場合にユーザー側に損失が発生することなどです。 この大きな価格変動リスクを持つ暗号通貨の問題を解決し、安定的な価値が存在する暗号通貨を作り出すことで一般ユーザーが実際に利用しやすい暗号通貨の実現を目指しているのがStablecoinです。

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Stablecoinを実現する3つのアプローチ

Stablecoinを実現するためのアプローチは現在3つあります。

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  • Fiat-collateralized
  • Crypto-collateralized
  • Seignorage Shares

※ collateralized = 担保

この3つのアプローチをそれぞれ見ていきたいと思います

Fiat-collateralized

Fiat-collateralizedの世界観

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Fiat-collateralizedによるStablecoinの実装はシンプルで、既に具体的に確立されています。このアプローチでのStablecoinの価値は米ドルなどの主要な法定通貨によって裏付けられています。 実装の仕組みは、中央的な組織が法定通貨(米ドルなど)を預かり、預かった米ドルに対して1ドル = 1トークンの様な形式でトークンを発行します。 Stablecoinから法定通貨に戻す場合は、所有しているStablecoinを焼却(Burn)し、焼却した量だけ法定通貨を中央から引き出すことで戻します。 シンプルな実現方法ではあるものの、Stablecoinの発行主体である中央的な組織(担保先)を信頼する必要があります。また、価値担保元である資産が適切に管理されているかを監査などを要します。

メリット

  • 単純な仕組みで実現できる
  • 適切に実装されている場合、Stablecoinの価格はペッグされた法定通貨価格と同じになる

デメリット

  • Stablecoinを発行する第三者(Tetherなど)が担保資産を適切に管理していることを信頼しなければいけない
  • Stablecoinが担保先で適切に管理されているかどうかを監査するための監査人を立てる必要がある
  • その監査に掛ける費用が高価で、監査には多くの時間を必要とする

プロジェクト例

Crypto-collateralized

Crypto-collateralizedの世界観 (例: MakerDAO)

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Crypto-collateralizedは先に紹介したFiat-collateralizedとは違い、暗号通貨を担保にStablecoinを発行します。 暗号通貨を担保にStablecoinを発行する場合、暗号通貨自体に高いボラティリティが存在するため、発行に必要な担保資産は発行量よりも多く必要とします。

例えば、$100のStablecoinを発行したい場合、$200相当のEtherを担保に入れて発行することになります。発行料よりも多くの資産を担保に入れる理由は、担保資産の価格変動により価値が低下したとしても、それを担保に発行したStablecoinの裏付け価値を保証するためです。$200相当の担保資産であるEtherの価格が担保時より20%低下し、$160になったとします。その場合、発行しているStablecoinの量は$100相当であるため、価値の裏付けが証明できています。 この様に価格変動リスクを想定して発行料よりも多くの資産を担保に入れる必要があるため、利用するユーザー側には多くの資産を必要とし、資産効率が悪い(資産を有効活用する機会を損失している)です。また、法定通貨 => 暗号通貨 => Stablecoinという流れを踏むためユーザー体験はあまり良いものではないです。

メリット

  • 法定通貨担保と違い、第三者を信用した担保に依存していない (第三者を信用しなくても良い)
  • 担保資産の管理に対する監査を必要としない (スマートコントラクトで実現する場合、コードを見ることで完結する)
  • 暗号通貨を担保に発行するため、ブロックチェーン上で迅速にStablecoinの発行と焼却を行うことができる (が、法定通貨からの変換のフローを踏む必要はある)

デメリット

  • 発行Stablecoinよりも多くの資産を担保に入れる必要があるため、資産効率が悪い(資産を有効活用する機会を損失している)
  • 暗号通貨を担保にする場合、価値担保を実現するために、価格変動に対する複雑なコントロールメカニズムが必要になる

プロジェクト例

Seignorage Shares

Seignorage Sharesの世界観

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Seignorage Sharesは先に紹介した2つの資産担保(法定通貨 or 暗号通貨)によるStablecoin発行とは違い、資産担保に依存しないアプローチでStablecoinの実現を目指しています。 このアプローチは物価水準を維持するために、通貨供給量をアルゴリズム的に維持する「中央銀行」の様な存在を設け、価格が上昇すれば通貨供給量を減らし、価格が下落すれば通貨供給量を増やすことで価値を安定させるアプローチをとります。

メリット

  • 資産の担保を必要としない
  • 理論的に法定通貨や暗号通貨に依存しないが、暗号通貨への需要低下がStablecoinの需要低下に依存し、価格が落ちる可能性がある

デメリット

  • 経済学的な需要と供給の仕組みにより通貨価値の安定性を保つため、他の担保の仕組みよりも複雑になる
  • 将来的に見込まれるSeignorage Shareに対する期待が見えないのは、Stablecoinが持つ弾力性がどれほどのものか知ることができないことを意味している
  • 常に需要が伸び続けるという前提が必要となる

プロジェクト例

実現可能性を整理すると

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ここまで紹介したStablecoinを実現するアプローチを実現可能性という観点で見た場合、上の図の様な難易度で見ることができます。 Stablecoinは現在研究開発段階であるため、今後さらなる技術の進歩や理論の確立に期待が高まっているという状況です

様々なStablecoin

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プロジェクト名 アプローチ LINK
Tether Fiat-collateralized LINK
TrueUSD Fiat-collateralized LINK
Arccy Fiat-collateralized LINK
Stably Fiat-collateralized LINK
Zen Fiat-collateralized LINK
MUFG Fiat-collateralized LINK
Bitshares Crypto-collateralized LINK
MakerDAO Crypto-collateralized LINK
Seetbridge Crypto-collateralized LINK
Havven Crypto-collateralized LINK
Augmint Crypto-collateralized LINK
Basis Seignorage Shares LINK
Carbon Seignorage Shares LINK
Fragments Seignorage Shares LINK
Kowala Seignorage Shares LINK

ぱっと調べた中でも以上のプロジェクトがありました。

この中からいくつかピップアップして紹介したいと思います。

Tether

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TetherはUSDにペグしたStablecoinのUSDTを発行します。USDペグなのでFiat-collateralizedに分類され、Tether Limited社が中央集権的にユーザーの資産を担保にUSDTと呼ばれるStablecoinを発行します。 先にも述べましたが、Fiat-collateralizedは通貨発行を行う中央主体を信頼しなければいけません。それはつまり、信頼する中央主体で問題(担保資産の盗難など)が起きた場合、発行されていたStablecoinの価値は失われるといった問題が発生します。

また、TetherはUSDTの発行と担保資産の有無についてこれまで多くの話題を作り世間を賑わせてきました。いわゆるTether問題と呼ばれるやつです。

この問題を端的に言うと。Stablecoinの発行元であるTether Limited社が資産担保ありきで発行するはずのUSDTを無担保で発行している。さらにBitcoinの価格を操作しているのではないかと言う疑惑が立っている問題です。このあたりの話は下記リンクの「ビットコイン爆弾「テザー問題」を眠い声で説明するよ」でわかりやすく解説しているのでこちらを読んで見てください。

こういったカウンターパーティリスク問題は、中央集権的に存在を必要とするFiat-Collateralizedにとっては避けて通れないのかなと個人的には思っています。

www.gizmodo.jp

この問題に対し、BitMEX Researchは「テザー懐疑論は論点がずれている」と提言しており、「管理されている資産はプエルトリコにあると思われる」という考察を示しています。 こちらの考察も面白いので読んでみてください。

BitMEX Research Tether

MakerDAO

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MakerDAOはEthereumプラットフォーム上で実現するStablecoinを実現するプロジェクトです。 Ethereumプラットフォームとある様に、MakerDAOで作られるStablecoinのDaiはERC20の規格に則っており、Etherを担保にStablecoinを発行するCrypto-collateralizedのアプローチを取ります。

このMakerDAOとStablecoin Daiの説明はDRIに所属する稲垣さん(@hiroingk)の「分散型Stablecoin "Dai" の仕組み」がとてもわかりやすく解説されているのでこちらを参考にしてみてください。

www.slideshare.net

こちらの発表はYoutubeにも動画が上がっているのでこちらも参考にしてみてください。

www.youtube.com

また、公式の動画もわかりやすいのでおすすめです。

vimeo.com

Basis

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Basisは記事冒頭でも紹介したAndreessen Horowitzから出資を受けているプロジェクトです。BasisのHPトップに「A stable cryptocurrency with an algorithmic central bank* (アルゴリズミックな中央銀行による安定した暗号通貨)」と書かれている通り、Stablecoinに対する需要と供給のバランスをアルゴリズムで調整することで価格安定性の実現目指しています。 このアルゴリズムで調整するという部分が重要なのですが今回は概要的な内容がメインになるのでサクッと紹介します。

Basisではトークンの需要が高まっている場合に、プロトコルがより多くのBasis(トークン)を発行し、供給を拡張することで値上がりするトークン価格を引き下げます。逆にコインの需要が落ちた場合、プロトコルが発行しているBasisを買い戻すことで、流通しているトークンの価格を引き上げます。この様にBasisはネットワーク上で流通している貨幣数量を操作することによって価値の安定性を保ちます。 貨幣数量に基づく価値安定の理論は以前記事にしているのでそちらを参考にしてみてください。

blockchain.gunosy.io

より詳細な解説はWhitePaperを直接読むのが良さそうです。また、こちらの記事ではプロトコル上での登場人物と関係性をわかりやすく図にしてくれています。

ブロックチェーン技術のリサーチで有名なindivさん(@indiv_0110 )がブログでBasisの仕組みをわかりやすく紹介してくれています。「アルゴリズミック中央銀行「Basis Protocol」の仕組みと疑問」こちらも参考にしてみてください。

Stablecoinと関わるアプローチ

ここまでのStablecoinの話を踏まえ、Stablecoinと今後どういった関わりを持っていけるのかを整理すると大きく2つあると考えています。

  • 新たなStablecoinを作る
  • 既存 or 新たに生まれるStablecoinを利用したサービスを作る

新たなStablecoinを作り出す

既存でいくつかStablecoinは生まれていきている(Tether / MakerDAO / Baisis)が、どれも研究開発段階で普及しているとは言い難い。 そもそも、Stablecoinを分散性を保ち実現することはとても難易度が高い。Stablecoinの普及は5年後ぐらい見積もると良いのかなという感じ(筆者の感覚値で理論はない)。完璧なStableを保った通過を作ることは不可能に近いが、今後研究が進み作り出されてくるのではと希望的観測をしている。 新たなStablecoinの作る場合、既存プロジェクトのStableを実現する仕組みや経済理論などを理解、研究した上で新たな仕組みを考案することになるため、長期スパンで考える必要がある。長い期間を要するため、それなりの資本が必要になり株式で調達 or ICOなども視野に入れるのが良い。

Stablecoinを利用したDapps

Stablecoinを利用する側の話。多くの開発者やサービス企画者がこちらに該当してくる。 Ethereumの台頭によりDappsなども生まれてきているが、Stabelcoinありきでの普及になるのではないかと予想する。なぜなら、一般ユーザーがボラティリティによるリスクを意識した場合、サービス利用に対する抵抗から普及が妨げられると考えられるから。

まとめ

  • Stablecoinは価格が安定している暗号通貨の総称で、一般ユーザーが商品売買やサービス消費に利用しやすくするために生まれた
  • 価格を安定させるためのアプローチは3つある。Fiat-collateralizedCrypto-collateralizedSeignorage Shares
  • Stablecoinは現在研究開発段階で、いくつかプロダクトが出てきているものの、実利用で用いられているものは少ない

参考資料

最後に

Stablecoinの概要を長々と紹介してきました。Stablecoinの必要性や仕組みを知るまではそんな代替暗号通貨は不要では?という雑な理解と解釈でした。今回改めてDappsの実利用などを踏まえて考えると価値が安定している暗号通貨の普及は、今後ブロックチェーン技術を活用したサービスを一般ユーザーに浸透させていくには避けて通れない壁であると感じています。 海外を見るとStablecoinのプロジェクトに多額の資金が流れており、今後も研究開発が進んでくると思われます。今後実用的なStablecoinが生まれ暗号通貨がもっと広まってくれることを期待したいです。

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