はじめに
こんにちは! 新規事業開発室の山口 (@yamarkz) です。
今回はこれまでと少し色を変えてブロックチェーン技術に関連した投資の話を紹介したいと思います。 先日ソーシャルゲームを手がけるgumiが仮想通貨・ブロックチェーン技術に関連した投資ファンド 「gumi Cryptos」を設立し、本格的に仮想通貨・ブロックチェーン事業に参入するというニュースを目にしました。
同社は既に複数の米国ICO案件に対して投資をしており、今後はグローバルにICO案件に投資を進めていくようです。 今後日本でもさらにCrypto Fundが立ち上がり、スタートアップ、ICOプロジェクトが育ちやすい環境整備が進んでいくと思います。
今回のニュースを目にし疑問に思ったのは、ICOプロジェクトに対して専門に投資を行う人たちはどのような観点でプロジェクトを評価し、投資を行う意思決定を行なっているのか。ということです。 株式投資では現在、様々な企業分析手法が確立されており、分析を行なった上で投資の意思決定がされています。もちろん分析手法での結果だけで投資を行うかの判断をしている訳ではないと思いますが、なぜそこに投資をするのか?という質問に対し、理論的な理屈を述べる必要があると思います。 対して、ICOプロジェクトの場合はどのような根拠を元に投資を行う意思決定をしているのでしょうか。 調べてみると、いくつか着目する観点があることがわかりました。今回はその中でもプロジェクトのトークン価格の変化について紹介したいと思います。
ICOプロジェクトに対する投資と流れ
ブロックチェーン技術・仮想通貨に対して投資を行う機関投資家は一般的には「Crypto Fund」と呼ばれています。このファンドは従来の企業株式に対して投資を行うのではなく、ICO (Initial Coin Offering) を実施し資金調達を行うプロジェクトに対して投資を行います。※ 株式へ投資を行う場合もあります
ICOプロジェクトに対して投資を行なった場合、投資の対価にはICOで発行される独自のトークンを取得します。 ICOが成功し資金調達が完了すると、そこで集まった資金を元にプロジェクト開発が進められます。この間、トークンはいずれかの取引所(セカンダリーマーケット)に上場されユーザー間で取引が可能になり、発行されたトークンに価格が付き始めます。開発が進み、サービス提供が開始されるとトークンを利用することでサービスを享受することができるようになります。トークンはこのサービスを享受する際に消費される為、サービス利用者が増える (需要が増える) と連動して価格が増加していくと考えられています。そして、投資家はある程度価格が高まったタイミングを見計らい、トークンを売却などするなどしてキャピタルゲインを得ることができる。という流れです。
ここで紹介した流れは一例であり、これが全てではありません。しかし、多くのICOプロジェクトは上記の流れを経て資金調達を行いプロジェクト開発を進めています。逆に投資家はプロジェクト失敗のリスクを負いながらも資金を提供し、プロジェクトが軌道に乗ることでトークンの価格が上がり、キャピタルゲインを得ます。
トークンの価格はJカーブを描く
ICOプロジェクトが提供するサービスの利用需要が増加するに連れて、トークン価格は上昇すると考えられています。価格が上昇することで、投資時のトークン販売価格と現在の流通価格に差分が生まれ、この差分が投資家のキャピタルゲインになり、運用成果となると先で紹介しました。 この話の中で表現された価格上昇グラフは投資後徐々に上がっていく図になっていますが、この図はあくまで例として用いた図であり、本来は図のように右肩上がりで価格上昇が起こることは少ないです。
過去のトークンの価格変動を分析した結果、その多くはJのカーブを描くと言われています。この価格変動のカーブは「Crypto J Curve」と呼ばれており、 日本ではあまりこの話を聞きませんが (自分もつい先日まで知りませんでした。。。) 海外では有名な話で、Placeholder CapitalのChris Burniskeさんがこの構造をブログで紹介しています。 ここから内容を掻い摘んで紹介していきます。
Crypto J Curveの基本的な考え方は、マーケットが時間の経過と共に、どのようにCrypto Assets (トークン) を評価するのかに由来しています。
トークンの価格は2つの要素で構成されていると考えることができます。
- current utility value (CUV)
- discounted expected utility value(DEUV)
current utility value (以下、CUV) とは、和訳すると「現在の利用価値」です。これは現時点でトークンがプラットフォーム内で実利用された場合のトークン価値を現在価格に落とし込んだものです。 discounted expected utility value(以下、DEUV)とは、和訳すると「割引き期待利用価値」です。これは将来期待される利用価値を現在価格に落とし込んだ値です。
このCUVとDEUVによってトークンの価格は決定されると言われています。つまり、現在の利用価値と将来の期待価値の総和が現在のトークン価格であるということです。
この価格決定の流れを深く見ていきます。
Whitepaperの段階ではトークンに価値は付かず、Release (セカンダリーマーケット上場も含む) の時期から価格が付き始め、最初の波が訪れます。 この時点でのCUVは最小であるか、もしくはプロトコル自体が存在しない場合には価値がありません。それでも価格が付いているのはDEUVがあるからです。 初期のトークン価格はDEUVによって支えられているためマーケットの気まぐれで変動します。
時期は開発のフェーズに移っていきます。調達資金を元に開発が進められていきますが、ここで多くのプロジェクトは予測することが困難な障害に遭遇します。 障害は分散型のシステムで発生するかもしれませんし、チームメンバー間の摩擦かもしれません。障害により進捗が芳しくない状況を見てマーケットの熱は落ちていき、DEUVは圧縮していきます。ユーティリティの価値がない状況でDEUVが圧縮されるので、トークンの全体価値も落ちます。価格は落ち込みますが、チームは障害を乗り越え、プロジェクトの開発・改善は進み、プロトコルは構築されていきます。そして、実際に利用できるプロトコルが形成され始めると徐々にユーザーが流れ始め、CUVが生まれます。
CUVが生まれ始めるとユーザーも徐々に増え、CUVは静かに増加していきます。ここからカーブは徐々に上向きに転じていきます。 マーケットはCUVに気づき、DEUVを高めていくため、この上向きの変化は急峻になります。この時、価格の絶対値はCUVの増加とDEUVの増加が重なるため過去最大になります。
Crypto J Curveはマーケットの感情とユーティリティ価値の変化による価格表現です。期待が最初に高い場合には、価格の多くはDEUVで構成されます。マーケットが落ち着くとDEUVが圧縮されるため全体価格が低下しますが、開発の進捗によりCUVが生まれ始めます。緩やかに増加するCUVにマーケットが気づき始め期待が再び高まるとDEUVが大きくなるためトークンの価格は過去最高にまで高まります。
このCUVとDEUVの変動が1つのサイクルとして続いていくと考えられており、この一連の流れが「Crypto J Curve」と呼びます。そして、1サイクルの価格構成比率の変化を表したのが上記の図です。
過去のBTCの価格変動が、これまで述べてきた変化を表現しています。
まとめ
- ブロックチェーン・暗号通貨技術に対して投資を行うファンドは「Crypto Fund」と呼ばれる
- ファンドの投資では株式ではなく、トークンを取得する
- トークンの価格はJのカーブを描いて変化する
終わりに
今回は技術やビジネスではなく、投資の話を紹介してみました。海外ではCryptoの投資に対する考え方の理論が提唱されていたり、最適な評価の方法に関するディスカッションが行われていたりと調べていて興味深かったです。 調べていた中でも驚いたのが、投資ファンドが「なぜ自分たちはブロックチェーン領域に投資を行うのか」ということについて自分達の考えと、将来の展望に対する推測を紹介したWhitepaperを出していたところです。こちら 面白いのでぜひ読んでみてください。 また、本ブログでは今後も引き続きブロックチェーン技術関連に関する投資のナレッジも共有していきます。
宣伝
Gunosyではブロックチェーンを始めとしてスマートスピーカー、VR/ARと言った新規領域での研究・開発を進めており、メンバーを募集しています。
少し話を聞いてみたい!という方も歓迎していますので、下記のリンクからの応募お待ちしております。
また弊社Gunosyでは、blockchain.tokyo を主催するなど、ブロックチェーンや仮想通貨に関する研究開発を進めています。
イベントグループへメンバー登録をしていただくとイベント参加者募集の通知が来るので、こちらもぜひ登録してみてください。