はじめに
Gunosy 新規事業開発室 インターンの小島です。
現在、多くのDapp(分散型アプリケーション)ではICO*1によって資金を調達するケースが多く見られますが、ICOはあくまでも資金調達の手段であるため、それ単体で持続可能な収益モデルではありません。
そこで、現行のDappsではどのように持続可能な収益モデルが設計されているのかを調べてみました。
先日、Dappsのビジネスの概要を記事にてご紹介しましたが、本記事ではEthereumブロックチェーン上で実際に動き始めているDappsを中心に、ICO以外での具体的なマネタイズ事例についてご紹介していきます。
手数料モデルによるマネタイズ
CryptoKitties (ゲーム)
CryptoKitties | Collect and breed digital cats!
Dappの成功例としてもよく知られる*2CryptoKittitesは、ゲーム内で生まれる仮想のネコを集めて育てるゲームです。
ユーザー同士でネコの販売取引ができるマーケットプレイスを用意しており、
ユーザー間取引毎の3.75%の手数料
運営元によるGen0と呼ばれるネコの販売
の2つによって収益を得ています。
またCryptoKittiesのWhitePaperでは、
A sustainable revenue-based model (as opposed to an ICO)
が掲げられており、ICOに頼らないDappsの持続的な収益モデルをつくることがゲームの目的でもあるようです。
余談ですが、CryptoKittiesの売上は以下のサードパーティのサイトで見ることができます。 現在は昨年12月の最盛期ほどの取引はありませんが、継続的なレアリティの高いネコの追加などにより、未だ人気は根強いようです。
その他、CryptoKittiesの詳細についてはこちらのWhitePaperを参考にしてください。
また、このようにEthererumを用いたゲームは他にもEtherionsやEtheremonなどが次々とリリースされており、今後もより盛り上がっていくジャンルの1つになりそうです。
Populous (売掛金担保融資)
Populous: Invoice Finance on blockchain
Populousは、インボイスファイナンス(売掛金担保融資)のための請求書のマーケットプレイスです。
インボイスファイナンスという言葉は聞き慣れないかもしれませんが、これは未払いの請求書を割引額で販売することで早く現金を得る資金調達の方法です。
Populusのマーケットプレイスでは、Fiat(法定通貨)の代わりにFiatの価格に連動したPopulus内の暗号通貨「Poken」が使われます。 Populousでは、このPokenを変換して引き出す際に手数料を取る収益モデルになっています。
Populousの具体的流れは、
- 売り手は、請求書を割引額でPopulousで販売する。
- 買い手は、請求書をPopuplusにて購入する。
- 請求書の債務者が請求書を精算すると、請求書の買い手はその精算金を受け取る。
であり、これらをスマートコントラクトにすることで自動的な取引を実現しています。
こちらは2017年の7月にICOを行い、$10,220,400 (= 約10.9億円)を調達しています。
詳細は、公式のビジネスプランの資料やWhitePaperを参考にしてください。
Dappsプラットフォーム上のアプリケーションでマネタイズ
Etherisc(分散型保険プラットフォーム)
Etherisc - Decentralized Insurance
Etheriscは、スマートコントラクトを用いた保険アプリケーションをつくることを目的とした分散型保険プラットフォームです。
Etheriscそのものに手数料モデルなどのマネタイズは現在存在していませんが、Etheriscを利用してつくられた他の保険会社と提携した保険Dappsでのマネタイズが予定されています。
現在は、飛行機のフライトの遅延を保障するFLIGHT DELAYや農作物の生産を保障するCROP INSURANCEなどの実際に保険会社と提携したデモがリリースされています。
Basic Attention Token / Brave
Basic Attension Token (以下、BAT) はデジタル広告のためのトークンで、同じ開発元のBrave Softwareが提供するBraveというブラウザを用いることで活用できます。
詳しい仕組みは、WhitePaperを参照してみてください。
(BAT の WhitePaperより)
BATを用いたプラットフォームでは広告の出稿主が支払った広告費を、「媒体」「広告を閲覧したユーザー」「Brave Software(開発元)」の3者に分配される仕組みがあり、そこでマネタイズを行っています。
BAT はBraveで活用されることを前提としていますが、第三者がこのトークンを用いてBraveと同様の仕組みのアプリケーションをつくることが可能になっています。
Dappsの周辺プロジェクトでマネタイズ
OmiseGO
OmiseGO: Unbank the Banked with Ethereum
OmiseGOは、オフチェーンの決済プラットフォーム「Omise」とオンチェーンでの決済プラットフォーム、スマートコントラクトによる分散型取引所を統合したプラットフォームです。
具体的には、ユーザーに様々な通貨/ポイントのデジタルウォレットを、開発者にはウォレットSDKを提供することで、
- 決済
- 送金
- ポイントサービス
などの機能をOmiseGOネットワーク上で誰でも提供できるようなプラットフォームになることを目的としています。
マネタイズ手段はクラウドセール時のドキュメントによると、
- アプリケーションのバリデーションフィー
- OMGトークンの保持
- 関連企業(Omise)の成長
- OmiseGO チェーンでサービスを実装する企業向けのコンサルティングサービス
と記載されているため、Dappとしてではなく周辺のエコシステムでマネタイズをしていくモデルのようです。
Factom
Factom - Making the World's Systems Honest
Factomは文書の存在証明を目的としたプロトコルです。
Factomプロトコル自体は非営利のFactom Foundationによってサポートされているのですが、企業としてのFactomは、
- Harmony(住宅ローンのためのFactom)などドメインに特化したFactomを用いたプラットフォーム
- toB向けのFactomを使った個別ソリューションの提供
によってマネタイズをしています。
また、Factomは2015年5月のトークンセールにて、2,278 BTCを調達しています。
まとめ
現在、Dapp単体で成り立っているマネタイズ手法としては、コントラクトによる手数料モデルがメインになっているようです。
その他、
- ブロックチェーンを用いたプラットフォームやプロトコルを開発し、それを用いたアプリケーションでマネタイズするケース
- OmiseGOやFactomのように、Dapps単体でのマネタイズを主としていないケース
などがあり、今後より多様なマネタイズ手法が確立されていくのではないでしょうか。
おわりに
ここまでいくつかのマネタイズ事例を紹介してきましたが、まだまだ実際に運用されているDappの数が少ないために、ビジネスモデルやマネタイズ手法もほぼ確立していないように思います。
しかし、このようにトークンが実際にDappsによって使われる例が増えることで、Decentralized(非中央集権)な経済が生まれるポテンシャルがあるのではと考えさせられました。
*1:Initial Coin Offeringの略。プロジェクトに関連した独自トークンを発行し、トークンを対価にプロジェクトを推進するための資金を調達する手段のことです。
*2: Ethereumブロックチェーン上で仮想仔猫の売買が流行、わずか数日で100万ドル以上の取引が行われた | TechCrunch Japan